東京高等裁判所 平成9年(ラ)2152号 決定 1997年12月03日
抗告人
株式会社A
右代表者代表取締役
根本一郎
右代理人弁護士
山田靖彦
相手方
有限会社日の出商会
右代表者代表取締役
三ヶ島章光
主文
本件執行抗告を棄却する。
執行抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 抗告人は、「原決定を取り消し、本件不動産引渡命令の申立てを却下する。」との裁判を求め、抗告の理由は、別紙「執行抗告の理由書」写し記載のとおりである。
二 一件記録によれば、本件競売は、平成三年二月一日付けで設定登記された根抵当権に基づき、平成四年一〇月六日付けで競売開始決定(同日差押登記)がされたものであることが認められるところ、抗告人は、会社設立中の平成元年三月一日本件競売物件である原決定別紙物件目録記載の建物部分を含む一棟の建物(以下「本件建物」といい、そのうち本件引渡命令の対象物件である右建物部分を「本件建物部分」という。)を当時の所有者である佐藤一男及び佐藤花子から賃借し、同年四月四日に抗告人設立後は抗告人が賃借人となって本件建物の各室を転借人に転貸してきたものであり、その後所有者(貸主)が安田和子に変わったり、抗告人が高田淳子に賃借権を譲渡した後にこれを買い戻すなどの経過を経たが、抗告人の本件建物部分に対する占有は前記差押登記はもとより前記根抵当権設定登記にも先立つ賃借権に基づくものであるから、引渡命令の相手方に該当しない旨主張する。
しかし、抗告人が平成元年に当時の所有者から本件建物を賃借したとの点については、賃貸借契約書は提出されておらず、本件競売における執行官の現況調査に対する抗告人関係者の陳述でも何ら触れられていないのであり、抗告人が提出した平成二年二月から平成三年一月までの間の抗告人から佐藤一男の預金口座に対する振込関係書類(振込金受取書又は入金受取書)も、その記載内容からは振込金の性質が不明であり、月によって振込金額が異なることからしても、抗告人主張の賃貸借の賃料の振込みを裏付けるものとはいえない(なお、この振込みは次に述べるところからすると、抗告人が管理会社として本件建物の各室の賃借人から集金した賃料の振込みと推測される。)。
そして、一件記録によれば、抗告人の現在の代表者取締役は本件競売手続における債務者の一人である根本一郎であり、平成三年二月から平成四年二月ころまでの間の代表取締役は本件競売手続における所有者の安田和子であること(現況調査報告書の添付書類の各賃貸借契約書)、抗告人は、本件競売開始決定の約六か月前の平成四年四月三日付けで本件建物に存続期間を三年とし、譲渡転貸ができる旨の特約のある賃借権設定仮登記をしていること、抗告人は、平成五年一月に行われた執行官の現況調査の際に、所有者の安田和子との間の平成四年五月一日付け賃貸借契約書及び抗告人から高田淳子に対する賃借権譲渡契約書を呈示しているが、右賃貸借契約書における賃料は本件建物(店舗が四室、居宅が四室の合計八室ある。)全体で一か月二〇万五〇〇〇円であるのに対し、敷金が二〇〇〇万円、造作譲渡金額が二〇〇〇万円と極めて高額であり、しかも右賃料はすべて安田和子の抗告人及び根本一郎からの借入金と相殺するものとされていること、右賃貸借契約書には抗告人を「管理会社」とする不可解な記載がされていること、右現況調査において抗告人は各室の転借人との間の賃貸借契約書も呈示しているが、これらの契約書は、所有者の安田和子と各室の賃借人との間の賃貸借契約書(作成日付は平成三年二月から平成四年五月にかけてのもの)の賃貸人を右安田から高田淳子に書き替えたものであることが明らかであり、かつ、抗告人はこれらの契約書のすべてにおいて仲介業者として記名捺印していること(このことは、右書替えが高田淳子に対する賃借権譲渡に伴うものとしても、少なくとも平成四年四月までの各室の賃貸人は抗告人ではなく所有者の安田であり、抗告人は単に仲介業者にすぎなかったことを示している。)、更に右賃貸借契約書中には右安田と抗告人との間の賃貸借契約書の作成日付より後の平成四年五月一一日付けのものがあるが(二〇二号室)、この賃貸借契約書の賃貸人も当初は右安田と記載されていたのが右高田に書き替えられており、右安田と抗告人との間の賃貸借契約書及び抗告人から右高田に対する賃借権譲渡契約書と矛盾すること、以上の事実を認めることができる。
右に認定した諸事実からすると、抗告人は、本件建物の所有者と各室の賃借人との賃貸借契約を仲介し、賃貸借関係の管理をしていたことはあったとしても、前記抗告人の本件建物に対する賃借権設定登記、右安田と抗告人との間の平成四年五月一日付け賃貸借契約書及び抗告人から高田淳子に対する賃借権譲渡契約書は、その登記及び契約書作成の時期、内容、当事者及び各室の賃借人との間の賃貸借契約書の内容からみて、本件競売手続の債務者及び所有者と密接な関係を有する抗告人が、競売手続を妨害するため賃貸借の外形を作出したものにすぎないものと認めるのが相当である。
三 そうすると、抗告人は本件競売手続における差押えの効力発生前から権原により本件建物部分を占有していたとは認められないから、抗告人が引渡命令の相手方となるとした原決定は相当である。
よって、本件執行抗告は理由がないから棄却し、執行抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官荒井史男 裁判官大島崇志 裁判官寺尾洋)
別紙<省略>